コミュニケーション支援用の絵記号がJIS(日本規格協会)によって規格化されました。これは非常口サインを世界標準にした日本が、再び世界に先駆けて作った規格です。グラフィックデザインという位置づけだった「ピクトグラムサイン」が「シンボル」と融合して絵記号になったと言えます。標準化の内容とそこに至った背景や意義、またこれまでの普及などについて述べます。 JIS絵記号 「JIS絵記号」とは2005年4月に公表された日本工業規格 「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則(JIS T 0103)」*の参考資料の313個のピクトグラム(無償公開:左バナーよりダウンロード可)を指します。これらは図記号(Grapical Symbol)と区別して「絵記号」(Pictorial Symbol)と呼ばれます。 絵記号の参考例 (左より「家族」「台風」「トイレ」「欲しい」)
規格化に至った背景は、日本における高齢化やUD(ユニバーサルデザイン)の普及です。この潮流の中で、2000年に縦割り行政の壁を排して経産省、文科省、そして厚生労働省が連携し日本規格協会内にPIC調査委員会が設置されました。その後3年の調査を経て規格化に向けた作業がスタートし05年に公表されました。 313個のデザインは、言語障害児・者に利用されてきたPICシンボルが基になりましたが、そのまま流用するには問題がありました。国内で利用されてきたPICシンボルが、カナダ版、スウェーデン版、日本版からの混成になっていて、デザインにおいての優劣、また文化性などのばらつきが大きく、原則を具現化した参考例としては適切でなかったためです。原則に沿って新たに制作されることとなりました。 デザインワークは優れたデザイナーの協力を得てオフィス・スローライフが一年をかけて行いました。その間、委員会のワーキンググループメンバーにも貴重な意見をもらい修正、加筆がなされました。ピクトグラムとしても高い完成度をもたらしてくれました。 313個の参考例は、特別支援学校、老人クラブ、市役所職員ら計187人に対して「見やすさと適切性調査」を行い、その調査結果を基にモチーフの変更やデザイン修正がなされ、最終版として公開されました。 |
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デザインの原則と標準化の意義 2005年4月に日本工業規格として公表された絵記号デザイン原則(JST T0103)は、双方向のコミュニケーションの為のピクトグラムをどう捉え、どういうルールで制作するかというデザインの原則です。 日本版PICシンボル約600個作成時の当オフィスの林による作成基準(1998)を叩き台として議論がなされ標準化のルールが決められました。さらにIECやISOの該当分野との連携も視野に入れ、語彙カテゴリなど幾つかの付属書をつけて日本工業規格JISとなりました。 原則は下記の構成になっています。
この規格が、これまでの図記号など「工業規格としてのJIS」と異なる点は、図案を規格にしたのではなく作図ための原則を示した点と、本質的に「工業」規格ではないという点です。つまり、コミュニケーション支援用であること、案内用図記号とは比較にならいないほど多数であるという点より、心理学や言語学からの知見が取り入れられています。それは、モチーフの選定方法や発達心理学に基づくカテゴリ分類などに生かされています。一方で、標準案内用図記号との整合性が図られています。 ● ● ●
特別支援学校や障害児・者の施設などの現場では、様々な視覚シンボルがありコミュニケーション支援に役立っています。そのような中で、「標準化」の意義とは、将来に渡って(時間)、 誰も(人)が、様々な場所で(空間)で、良質かつ同じものを『共有』できるという点です。そのために無償ダウンロードの整備*も行われました。利用者の立場を考えるとこれらが最も重要なことと考えます。 この普遍性によって、例えば、支援者が異動で新しい子どもに出会った時に「この子も絵記号を利用している」、反対に「この先生も絵記号に精通している」など、直ぐにコミュニケーションが図れて訓練効果も高まります。 慣れ親しんだシンボルに合わせることが大切であることも勿論ながら、標準化されたシンボルの利用と普及は訓練者側の負担と工数を省くことでもあります。実際のコミュニケーション支援により多く時間を割くことができます。 さらに、標準化そのものがノーマライゼーションにつながって行きます(下図)。 ● ● ●
現在、世界はグローバリゼーションの中で加速度的に狭くなっています。日本でも英語の小学校での必須化が始まりました。このような時代に、視覚シンボルとしての絵記号が規格化されたことは、世界に5000はあるといわれる言語とは全く異なるコミュニケーション手段が人類共通語として発展していく可能性を示したとも言えます。 |
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PICシンボルとJIS絵記号の違い 絵記号作図原則の参考例313個にはは古いPICシンボル*をベースにしたものが多くあります。新規シンボルの作成にあたってのポイントは、モチーフなどカナダ、スウェーデン版との文化差の修正や変更、またバラバラであった構図バランスやタッチ、線幅などデザイン性を統一させ、整合性(お揃い感)を持たせることでした。 黒地に白図という基本のみが共通点だった各国のPICシンボルが整合性のとれた、UD(Universal Design ユニバーサルデザイン)として受け入れられるレベルに仕上げられました。修正のレベルを三つに分けた例です⇒ ● ● ● 上の図(修正例)のように、PICシンボルはJIS絵記号に準じた絵記号、PIC(J)シンボルとして進化を遂げました〔(J)はJIS/JapanのJ〕。即ち、過去のPICシンボルやJIS絵記号と当サイトのピクトグラムのデザイン性は下図のような関係になります。ギャラリーの1400個と以後にダウンロードサイトでアップしているシンボルは「JIS絵記号」のデザイン原則に基いた「PIC(J)シンボル」として位置付けられます。 |
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JIS絵記号の拡がり コミュニケーション支援用絵記号のJIS化によって、様々な機関から関連した支援ツールが公開、出版などなされてきました。多くは無償のもので視覚シンボルによるコミュニケーション支援の輪が広がっています。 ピコットシステム(2004) PICOTシステム(Pictorial Communication Tool)は、日本における元祖AAC(Agumentative and Alternative Communication)=拡大・代替コミュニケーションであり、ネット上でダウンロードして利用できるものでした。シンボルは、ピクトグラムではなくイラストのシンボルです。 PICOTシステムはドロッププロジェクト(Dropret Project)へ引き継がれました。 NHK南極キッズ 絵文字チャット(2004) NHK教育番組 「南極キッズ」のホームページ上での絵文字チャット。世界中の子供たちが環境問題についての意見をピクトグラムで伝え合いました。ピクトグラムによる世界初のコミュニケーションシステムです。当オフィスがモチーフと構図を担当しました。「温暖化」や「二酸化炭素」、「突然変異」などの専門用語をピクトグラム化した試みでもありました。 コミュニケーション支援ボード(2005〜) 明治安田こころの健康財団によって作成され自治体や交番等の公共機関へ15万部ほどが配布されました。JIS絵記号と構図を一にした子ども向けの馴染みやすいイラストシンボルを用いており、簡単なコミュニケーションツールとして広まっています*。 警察・交番や銀行などの窓口専用にアレンジされた専用の支援ボードや各自治体がこれをベースに様々なボードを作成しています。「コミュニケーション支援ボード」で検索すると様々なボードがご覧いただけますよ。 PicTalk(2006) 当オフィスでWinXP用に開発・販売した日本初の本格的なAACソフトウェアです。JIS絵記号313個を含むこのサイトのギャラリーのピクトグラム約1400個を搭載したソフトでした。高度な検索機能や画像の簡単登録など当時としては画期的でした。 認知・知的障害者の知識表現支援技術の開発 (2007)
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規格化後は、コミュニケーション支援用絵記号の国際標準化に関するアジア域での調査が(財)共用品推進機構によって行われ、これからはアジア諸国をはじめ、世界に向けた 絵記号の拡がりが期待されます。 懸念されるのは、このような取組みにおける日本でありがちな問題点として各種ツールが乱立気味になること、またツールや技術(ハード)が先行してしまうことが揚げられます。つまり、これらが必要な人々と支援の方法についてのソフトである知識と実践が追いついていないということです。これらは両輪です。失語症者のサポート団体など少ないのが現状でその谷間を埋める取組が求められています。 ▼FaceBookページではピクトグラムや人工言語についてのアイディアなどさらに詳しい記事がご覧いただけます。 |
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