ピクトグラム&コミュニケーション>シンボルとは


  ここでは「視覚シンボル」とはなにかについて考えてみます。「サイン」や「声・言葉」とはどう違うのか、そして「視覚シンボル」はどう使われるのかについて説明したいと思います。



サインとシンボルの関係
 
 
 ピクトグラムは視覚サイン(記号sign)の一種という捉え方が一般的ですが、実は「サイン(sign)」はその働きや機能から「シンボル(symbol)」、「シグナル(signal)」、「インデックス(index)」という三つに分類できます*。これに沿って考えてみたいと思います。



清水分類
清水の分類(岡本1982;浜田1988他一部改変) *

 下に述べることは当たり前と感じられるかもしれませんが、考えてみると大変不思議なことです。


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 「あるもの(A)をそれとは別のあるもの(B)で表す」場合に「別のあるもの(B)」を「シンボル」と呼びます。この二つは異なるものであるという点がポイントです。

 例えば、本物のを頭の中でイメージしてみます。それは日本の声・ことば(音声言語)では(←click)ですが、英語ではとなります。書き言葉では「鉛筆」、“pencil”です。この日英は音声も文字も異なるものです。しかし、どちらで呼んでも、どちらで書いても表そうとしている「対象」は同じです。つまり、「あるもの(A)」であると、「別なあるもの(B)」であるという音声、もしくは「鉛筆」や“pencil”という文字の間には、必然的な関係はありません。別な次元であるという言い方もできます。この関係性を「恣意的である」*と言います。言語は全て恣意的ということです。

 次に、ある刺激がある反応や動きを生み出す時、その刺激をシグナルと呼びます。例えば、条件反射*で有名なパブロフの犬のようにベルの音で唾液が自然と分泌される場合にベルの音をシグナルといいます。「うめぼし」と聞いただけで、唾液が出る人もいますが、この場合は「うめぼし」という言葉が「シグナル」として働いたといえます。

 最後のインデックスは「指標」や「標識」と訳されますが、事物の一部と全体の関係に注目した用語です。例えば、鼻の絵だけでゾウと分かる時の鼻はインデックスです。また、ある曲の出だしを聞かせて曲名を当てるイントロクイズなどもインデックスの働きを利用したものと言えるでしょう。一部と全体を時間・空間的に分かちがたい場合の際立った特徴をいいます。


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 シグナルやインデックスは、時空を超えません。その場限りの、時間的に短く対としての補完的な働きにその本質があります。また全ての動物が使うことのできるサインでもあります。

 一方、表すものと表されるものとの二分した関係で働くものがシンボルです。そのシンボルを、時空を超えて自由に使えるのは人間だけ*です。この操作能力がヒトを人間たらしめている特徴の一つと言えるでしょう。そのシンボルの代表は声・ことば(音声言語)ですが、視覚サインも同様にシンボルとして働くと考えられています
。それを特に「視覚シンボル」と呼びます。

 ここで付け加えておけば、言語(表すものの一つ)と表されるものとの関係が崩れた例が脳損傷によって起こる失語症です。従って、失語症者は言語を利用できませんが、絵やサイン、視覚シンボルは理解が可能ということになります。失語症の検査が絵をみせて行われるのはそのためです。ちなみに、認知症となると絵の理解も難しくなくなります。

  また言葉の発達が遅れた子供達の中にも、頭の中のイメージを視覚シンボルで表すことができることが多々あります。脳の中では視覚的なイメージは失われにくく、また言語より先に獲得するからでしょう。



 

 

*・・分類できます。
研究者によって分類方法は異なります。











 



*記号の分類:
視覚シンボルの心理学」p7清水寛之編著(ブレーン出版)




 

 

 

 

 

*・・・である」:このことを言語学で「恣意性」と言います。

 

*条件反射:ある条件下で個体に形成される反射。対して、無条件反射は生得的に生起するもの(光で瞳孔が開くなど)
パブロフの犬:本来ベルの音は肉(食事)と関係ないが、ベルの音を聞かせて肉を出し続けたことで音だけで唾液がでるようになった。

 

 

 

*・・人間だけ・・:類人猿(チンパンジーやゴリラ等)もシンボルを使えるとされる研究がある。「カンジ」(NHK出版) 「ヒトに最も近い類人猿ボノボ 」( ティビーエスブリタニカ社)など。

 
「視覚シンボル」のはたらき

 
 では、「視覚シンボル」という概念について、シグナル、インデックスを含めた三者の関係とサインという全体から考えてみます。

 なんと言っても 「声・ことば」がコミュニケーションの視点からはシンボルの代表だということに違いありませんが、「視覚シンボル」も同様に豊かな働きをすると考えられます。たとえば、情報だけでなく人の心に喜怒哀楽など付随した感情も生じさせることもあります。

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 「シグナル」といえば、日本での代表はその名の通り交通信号でしょう。 とりわけ車道では青で進む、赤で止まる、という確かな強制力をもっています。上で述べたように身体的な反応を求めます。

  では、サインや視覚シンボルも強制力をもつシグナルになりえるでしょうか。

  卍(まんじ)は地図で広く使われているお寺の「サイン」という認識ですが、大昔には幸福を祈るという意味と、太陽の象徴として世界各地で使われてきた宗教的なシンボルだったようです。しかし、ドイツのナチ党がこの卍を基にハーケンクロイツ(下図右)を作りそれを用いた結果、とりわけてユダヤ人にとっては恐怖心や悪、憎しみといった強い感情を引き起こす視覚シンボルになりました。


寺とハーケンクロイツ

左がお寺、右がハーケンクロイツ

 
  当時ハーケンクロイツを一瞥して踵(きびす)を返したというユダヤ人は沢山いたと思われます。もはやこうなると、単なる「サイン」や「シンボル」ではなく、ユダヤ人にとっては、「パブロフの犬」のように、ある行動を引き起こすシグナルというほうが適切かもしれません。 戦争が終わってもそうした人々にとってはこれを見たときはぞっとするというような反応が永い間持続したかもしれません。交通規則以上の働きです。

 これなどは、ひとつのサインが時と場合、またそれを見る人によっては、シンボルまたはシグナルとして異なった働きをする例といえます。


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 次に、インデックスの例です。例えば、ゾウの鼻の形はゾウだけのもので、一度見たら忘れません。人工物でも、電車の屋根のパンタグラフで電車全体をイメージできるようになることも、インデックスの働きです。

  園児はお遊戯でウサギの耳を着けるだけでウサギさんになりますが、インデックスがシンボルの役割を果たしている例と言えます。


  アメリカではウサギの耳を付けたウェイトレスをバニーガールと呼びますが、その耳が可愛いbunny(ウサギ)をイメージさせます。ちなみにその生みの親であるPLAYBOY誌のシンボルは良くできていますね。


プレイボーイシンボル

PLAYBOY誌シンボルマーク
(c)Playboy Enterprises, Inc.



鹿

インデックスの例
マウスを当ててみて下さい

 


 こうしてみると、視覚シンボルも、ある時、ある状況下ではシグナルにもなり、インデックスにもなるということになり、またその反対もあります。絶対的なルールはないようです。



 






















 
コミュニケーション用の視覚シンボル

 上記のように「視覚シンボル」という用語は、「サイン」(記号sign)の中でも人間がもつシンボル機能を重視した用語と言えます。つまり、「声・ことば(音声言語)」と同じような働きをもつことに焦点を当てています。

 では「視覚シンボル」は、これまでの「サイン」とその用い方においてどのような違いがあるのでしょうか。

 下のピクトを見ると「男子トイレ」を連想する人が多いでしょう。しかしコミュニケーション用の視覚シンボルのルールでは、これは「人」を意味します。基本的には見たままということです。「男性」でなければ、多くの人にとって連想可能な「人」、「お父さん」、「叔父さん」、「男の先生」など、「人」か「男」であるという範囲でシンボライズされます。そこに図にはない「トイレ」という恣意的な意味はありません。



人・男man

「トイレ」(案内用サインの文法)
「男・人」「おじさん」「あいつ」・・・(視覚シンボルのルール)





「トイレです」「トイレはどこ?」「トイレに連れてって」「トイレが汚れてる」・・・




「おしっこがしたい」「おしっこする所はある?」「おしっこがでない」・・・



  トイレの案内用サイン(男女のピクト)は、予め案内を必要とする人を想定して作成され、特定の場所に掲示されています。何よりも、トイレを探している人を案内するという大前提のルールがあります。また、恣意性については学習により克服されることが必要だったのは「ピクトグラム」の項で述べた通りです。つまり、

  トイレに行きたい人 + トイレがありそうな場所=男女のサインが機能

というサインの文法を前提にしています。

 コミュニケーション用シンボルのルールでは、シンボルの絵と伝えたい意味とが形・イメージ(象形性)において近かったり、関連したものでなければなりません。 それが基本的なルールです。その背景には恣意的な学習自体が困難である人々が第一利用者であるということがあります。

 さらには、ミュニケーション弱者であるAさんが指したシンボルは、Bさんに伝えたいAさんの頭にあるイメージですが、それをAさんの欲求である「トイレに連れて行って」「トイレはどこ?」などに結びつけることは、二人の関係やその時の状況に依存します。

  その時々においてBさん(健常者)はAさんの立場に立って、指差されたシンボルからAさんの意図を察して「何をしたいのか・して欲しいのか」を読み取ることが求められます。

 トイレは一例ですが、乳児の指差しとそれを読み取る母親の関係と同じであり、基本的なコミュニケーション方法です。言葉が利用できない場合は有効な方法となります。