人類はいつ「ことば」を手に入れたのでしょうか?過去の研究からは10万年〜5万年前*と考えられているようです。ヒトの個体発生が受胎から出産までの間に系統発生を繰り返しているように、「ことば」の獲得過程も歴史を繰り返しているのではないかと考えています。 以下、ここでは「コミュニケーション」と「ことば」の関係について考えてみます。 コミュニケーションって? 本当にあったコミュニケーション 「目は口ほどにものをいい」とか、「以心伝心」というように、言葉以外で大切なことを伝えた、また受け取ったという経験は誰にでもあります。そうした言葉によらないコミュニケーションと言われると、皆さんはどういう場面を思い浮かべますか。 極端な例ですが、 なんとこの世に言葉があることさえ知らないまま27歳まで生きてきた聴覚障害をもつ人がいました。現代アメリカでの実話*です。その男性、イルデフォンソは手話通訳者によって見つけられた時、体を使って意思伝達をしていました。後に手話を習得できましたが、彼が物に名前があるということに初めて気付く場面は感動すら憶えます。 また、異なる言語同士でコミュニケーションが成り立った場面が報告されています。日本とオーストラリアの二人の子供が、日本語と英語でまとまったやりとりを自然にしていたそうです*。互いに「言葉」を話していたのでしょうが、これなど言語コミュニケーションと言えるのでしょうか。大人にとっては不思議な場面でしょうね。 いかがでしたか?とても可愛いですね。ターンテイクやジェスチャーもあって正にコミュニケーションです。両親の普段のやり取りを真似してるのかもしれませんが、やりとりそのものが楽しいんですね、きっと。 ● ● ●
そもそもコミュニケーションはどういう形で始まるのでしょうか。 コミュニケーションのはじまり 胎内から外界へ出され助産師さんに叩かれて(=刺激)「オギャー」と泣き出す(=反応)という体験が、人間のコミュニケーションの始まりと言えるかもしれません。誰もが目にできる「刺激と反応」という最初の場面です。 生後しばらくは母親との触れ合いが乳児のコミュニケーション能力を育てていきます。見つめられたり、あやされたり、また授乳や抱っこによる身体の接触など、母親やまわりの人々による感覚的なやり取りがコミュニケーション能力の土台作りになっていることが分かっています。それを憶えている人はいませんが、これは対人コミュニケーション能力の発達という視点から重要なものです。 大変に悲惨な話*があります。13世紀のヨーロッパのシシリー王、フレデリック二世は、赤ちゃんが最初に話す言葉が何かを知るために、食事など生理的な欲求は満たすが、無言の環境で育てるという実験を行いました。実験台にされた赤ちゃんは一言も発することなく皆死んでしまったそうです、、。 読み取られることで育つ 赤ちゃんの表情、声などはコミュニケーションという視点からは「サインsign」という言葉が適切です。受け取る側にどれだけの読み取りの力があるかが重要となります。その受け取る力、読み取る力が赤ちゃんのコミュニケーション能力を育てる鍵となります。 したがって、赤ちゃんはひとりでは生きて行けないという理由で、母親と対(つい)という考え*が適切となります。そのカップルの「刺激と反応」というやり取りをヒトコミュニケーションの原型とします。従って、赤ちゃんの発信よりも母親の反応の力(=受容能力)が大きな意味をもつことになります。 機嫌が良いのか、お腹がすいたのか、おしっこで気持悪いのか、、どれだけ母親に読み取られるか、、、後に発信するようになる能力は、先ずは養育者によって「サインsign」を読み取られて反応されることで育って行きます。 会話が「聴く」人がいて成立するということ、つまり発信と受容という在り方は同じですが、ここで違うのは言葉はそこでは存在しないということです。まだ赤ちゃんの脳に言語野は形成されていません。 誰でも知っていますが、言葉だけで「愛してるよ」と言われるよりも、赤ちゃんであれば抱っこされて笑顔で「バァー」とあやされる方が喜びます。合成音声で「バー」とか「アイシテイルヨ」と聞かせても、反応はないでしょう。 ● ● ●
ある研究*では言葉で伝わるメッセージは35%くらいで、残りの65%は身振りや表情など言葉以外によって占められているそうです。数字にされると納得できますね。 私たちは、冒頭のイルデフォンソほどではないにしても、知らず知らずのうちに身体を使ったコミュニケーションを行っているわけです。 一方で、老いてからはよく話しを聴いて貰うことが大切になってきます。人生の最初と最後は人とのコミュニケーションが何よりも大切な時期かもしれません。日本での「おれおれ詐欺(振り込め詐欺)」で被害を受ける人は、この欲求が満たされてないような気がします。 「嘘だよ」 「あの言葉を信じたばかりに・・・」とは、よく聞くフレーズですが、言葉の頼りなさ、はかなさを自覚し、言葉以外のメッセージを読み取ることでコミュニケーションをはかることが大切ということでしょう。 |
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言葉を使わないコミュニケーション 言葉を使わないコミュニケーションを「ノンバーバル(非言語)コミュニケーション」といいます。この用語から何を思い浮べますか。一般には、手話やジェスチャー、表情、合図やサインなどがあげられるでしょう。(ちなみに日本でも手話は言語と法的に認められています) |
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ヴィジュアル・コミュニケーションとAAC ノンバーバルなコミュニケーション方法の一つとして、ピクトグラムを代表としたサイン(図記号)があります。「ピクトグラムについて」のページで述べたように、近代になって盛んに利用されてきた一方向のコミュニケーション手段です。 その利便性は、言葉と時間を越えて情報を受け手に渡すことが可能ということにあります。 例えば、言葉の通じない外国でトイレを探しているとします。すると、そこに“おしっこのジェスチャー(なかなかできません^^)をしつつトイレのある方向を指差している案内人がいる”ということと同じ働きをしていることになります!(尋ねる人がいないビル内なども同様:上図) すでにサインが認知されるようになった現代では気付きにくいことですが、ピクトグラムサインが優れたコミュニケーション手段であることが分かります。これはサインが絵であるために言語の壁を乗り越えてくれるのです。しかも異言語間でのコミュニケーション手段にもなり得るわけですから、言語以上の働きをしているといえます。 このように空港や駅での案内として発達してきた一方向でのコミュニケーションの分野と、言語の獲得ができなかったり、不自由な人々のための双方向のコミュニケーション手段として発達してきたのが、ヴィジュアル・コミュニケーションと呼ばれる方法です。 ● ● ●
一方、障害などで言語にハンディのある人が双方向のコミュニケーションができるようにする方法を、言語障害の分野ではAAC(Augmentative and Alternative Communication=拡大・代替コミュニケーション)と呼んできました。AACは補助代替*とも言われますが、「コミュニケーション」という視点からは「拡大」させて行く方向で捉えた呼び名でしょう。 これまでの聾学校での手話と口話の関係*のように、教える人にとって「補助」的にしか使えない手話が、教わる人にとっては「主」であることもあります。ユニバーサル・コミュニケーション(UC)という視点から大切なことは、その手段はハンディをもつ人の方に合わせるべきであるという点です。「コミュニケーション保障」が何よりも先に来るべきです。 その方法は何でも構いません。コミュニケーション弱者の得意な手段を探して行けばよいでしょう。それが見つかれば、当事者相互の知りたいという欲求に応じてコミュニケーションは拡大して行きます。ただし、現実場面でのコミュニケーション成立のためには、AAC利用のコミュニケーション弱者の側は、そのための数多い機会と経験が必要となります。 AACの中で中心的なものが絵によるコミュニケーションです。言語にハンディをもつ子ども達とそれを支える人々の間で「視覚シンボルによるコミュニケーション」として広まってきました。現在では「PICシンボル」のページで紹介したように多くの種類のシンボル*があります。このサイトでは、そのためのシンボルとしては成人も利用でき、個性を押し出さないピクトグラムベースのPICシンボルが社会への受け入れやすさなど多くの点で優れているという主張をしています。 ● ● ●
さらに、AACのツールも数多くリリースされました。手作りのサポートブックやワンプッシュでの単純なVOCA(Voice Output Communication Aid)は良く知られたAACツールですが、今は、スマホやiPadを使ったソフトウェアもあります。 下記のホームページは先進国アメリカでの失語症者へのソフトウェア利用を紹介しています。 . 今のところシンボルで哲学を議論することはないでしょう。しかし、自己決定をはじめ生活のための言語という視点で捉えた時に、AACを必要としているコミュニケーション弱者は数多くいます。これからも、こうした技術(AT:Assistive Technology)が広まっていくことが期待されます。下は日本でのそのような取組みを発信している会のHPです ▼FaceBookページではピクトグラムや人工言語についてのアイディアなどさらに詳しい記事がご覧いただけます。 |
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